解決事例

2026/10/22 解決事例

解決事例|生前贈与の「持戻し免除」を争った遺産分割

生前贈与と遺産分割(持戻し免除)の解決事例のイメージ
解決事例(遺産分割・特別受益・持戻し免除)
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弁護士の谷 樹人です。
本日は、生前に受けた自宅の贈与を「特別受益」として持ち戻すべきかが争われた遺産分割で、審判により持戻し免除の黙示の意思表示が認められた解決事例をご紹介いたします。

1ご相談の概要

被相続人が亡くなり、相続人は被相続人の配偶者と子2人でした。ご依頼者は子の一人で、被相続人とは離れて暮らしていました。

ご依頼者は被相続人の生前、被相続人の自宅の土地と建物の共有持分の贈与を受けていました。自宅には被相続人の配偶者が住み続けています。

配偶者から家庭裁判所に遺産分割調停が申し立てられ、配偶者は、ご依頼者が受けた贈与は特別受益に当たると主張しました。当事務所は、調停の途中からご依頼を受けて対応しました。

2主な争点

  • ●生前贈与が「生計の資本としての贈与」(民法903条1項)として特別受益に当たるか
  • ●特別受益に当たるとしても、被相続人が持戻し免除の意思表示(同条3項)をしていたか
  • ●配偶者が主張した、別の時期の資金援助の有無
  • ●遺産である預貯金の範囲(配偶者は、その半分は自分の特有の財産であると主張)
参考条文:民法第903条(特別受益者の相続分)第3項「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。」

3当事務所の対応

  • ●別の時期の資金援助については、裁判所を通じて取り寄せた取引履歴などを確認し、該当する資金の移動が見当たらないことを指摘しました。
  • ●預貯金については、取引履歴に配偶者が入金した形跡がないことを示し、全額が遺産であると主張しました。
  • ●自宅の土地・建物については、配偶者が住み続けていて売却が難しく、ご依頼者の生計の資本とはいえないと主張しました。
  • ●持戻し免除については、医療機関などの記録や、被相続人が救急搬送された際の記録を取り寄せ、被相続人と配偶者の関係が良好でなかった事情や、配偶者ではなくご依頼者に自宅の土地を贈与した経緯などから、黙示の意思表示があったと主張しました。
  • ●主張の整理にあたっては、被相続人が相続分とは別に財産を与える意思を有していたことを推測させる事情があるかという観点から、贈与の動機、贈与の内容と金額、被相続人と各相続人との生活関係、他の相続人が受けた贈与の有無などを検討しました。
  • ●自宅不動産の処分も含めて調停でまとめて解決することを試みましたが、合意には至らず、審判に移行しました。

4結果

審判では、自宅の土地・建物持分の贈与は特別受益に当たると認められました。

そのうえで裁判所は、被相続人と配偶者の関係は冷え切っており、家庭内別居の状態にあったこと、救急搬送時の記録などから、被相続人が病気で倒れた際、配偶者は同じ自宅内にいたにもかかわらず救急の手配をせず、駆けつけた親族が救急車を呼んだことが認められること、被相続人が生前、ご依頼者に対し、配偶者には何も残したくないと話していたこと、被相続人が、自宅に住む配偶者ではなく離れて暮らすご依頼者に自宅の土地を贈与したことからすれば、被相続人には、ご依頼者に相続分とは別に財産を与える意思があったと判断し、持戻し免除の黙示の意思表示を認めました。

持戻し免除の黙示の意思表示が認められた主な事情(夫婦の関係・倒れたときの状況・生前の言葉・贈与の相手)と遺産分割の結果

その結果、この贈与を遺産に持ち戻して具体的相続分を計算する必要はなく、ご依頼者は、現存する遺産を法定相続分に従って取得することとされました。

配偶者はこの審判を不服として高等裁判所に即時抗告しましたが、抗告は棄却され、審判が確定しました。

5この事例から分かること

黙示の持戻し免除の意思表示は、贈与の動機や家族関係などの事情から判断され、一般に裁判所に認めてもらうことは容易ではありません。本件では、医療機関などの記録を取り寄せ、被相続人と配偶者の関係や、ご依頼者に自宅の土地を贈与した経緯を、客観的な資料に基づいて主張しました。

文献では、次のような事情がある場合に、黙示の持戻し免除の意思表示が認められることがあるとされています。

  • ●特定の相続人に家業を継がせるため、事業に必要な財産を贈与した場合
  • ●被相続人が贈与の見返りに利益を受けている場合(例:同居して扶養を受けるために、子に土地の使用を認めた場合)
  • ●受贈者に、相続分以上の財産を必要とする特別な事情がある場合(例:病気などで自立した生活が難しい相続人の生活保障のための贈与)
  • ●相続人全員に同程度の贈与をしている場合

本件のように黙示の意思表示が認められる場合もありますが、特定の相続人に相続分とは別の利益を与えたい場合は、遺言や贈与契約書で持戻し免除の意思を明確にしておくことで、争いを避けることが考えられます。

贈与を受けた不動産のように、すでに遺産ではなくなった財産の処分は、遺産分割の手続ではまとめて解決できないことがあり、共有物分割など別の手続が必要になる場合があります。

現在は、相続開始から10年を経過すると、原則として特別受益や寄与分を主張できなくなります(民法904条の3)。主張したい事情がある場合は、早めに手続を検討することが大切です。

参考条文:民法第904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)

おわりに

生前贈与の扱いは、贈与を受けた側・受けていない側のどちらにとっても、遺産分割の結論に大きく関わります。生前贈与や遺産分割についてお悩みの方は、当事務所にご相談ください。

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特別受益・寄与分を主張できる期限
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生前贈与の意思を遺言で明確にしておく

参考リンク(公的機関・一次情報)

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民法 ↗
特別受益(第903条)・10年の期間制限(第904条の3)を定める法律
裁判所
遺産分割調停 ↗
家庭裁判所の遺産分割調停の手続の概要

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