2026/10/14 解決事例
【解決事例】きょうだい間の遺産分割調停――特別受益・寄与分の主張を退け、不動産と代償金を取得
1事案の概要
ご依頼者(Aさん)の親が亡くなり、相続人はAさんと、親と長年同居していたきょうだい(Bさん)の2名でした。遺産は複数の土地と預貯金で、土地の一部はBさんが生活や仕事のために使用していました。
Bさんは遺産の大半を事実上使用し続けており、相続開始から長い期間が経っても、遺産分割の話し合いは進みませんでした。そこで当事務所が代理人となり、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てました。
調停は長期間に及び、途中で審判手続にも移行しましたが、最終的には当事者間の合意により調停成立で解決しました。
2本件の争点
本件では、Bさんから「Aさんは既に生前贈与を受けている」「自分には寄与分がある」「土地の価値は低い」といった主張が次々に出され、Aさんの取り分を大きく減らす方向で争われました。主な争点は次のとおりです。
| 争点 | 相手方(Bさん)の主張 | 当方の反論 |
|---|---|---|
| 特別受益 | 過去の別の相続の際などに、Aさんは多額の金銭を受け取っており、生前贈与にあたる | Aさんは受け取っていない。仮に受け取っていても、親からの贈与とは評価できない |
| 寄与分 | 長年、親に代わって土地の税金を負担し、生活も援助してきた | 負担・援助を裏付ける客観的資料がない。土地を無償で使っていた以上、特別の寄与ともいえない |
| 土地の評価 | 土地を貸している関係があるので減額すべき。税務上の評価方法で低く評価すべき | 賃貸借の実態を示す資料がない。税務上の減額措置は遺産分割の時価評価に用いるべきでない |
| 相続放棄の書面 | Aさんは親の生前、相続を放棄すると約束する書面に署名している | 相続開始前の相続放棄は法的効力がない |
これらの主張がすべて認められると、Aさんの取得額は法定相続分を大きく下回るおそれがありました。
(参考:特別受益は民法第903条、寄与分は民法第904条の2、相続放棄の方式は民法第938条に定めがあります。)
3苦慮した点
(1) 古い出来事を「なかったこと」として示す難しさ
最大の争点は、何十年も前にAさんが金銭を受け取ったかどうかでした。Bさんは、Aさんが受け取ったとする陳述書を提出しました。
「受け取っていない」という事実は、性質上、証拠で直接示すことが困難です。しかも当時の資料の多くは既に残っておらず、事情を知る親も亡くなっています。Aさんの記憶を丁寧に聞き取り、残された資料と一つずつ照らし合わせる作業が必要でした。
(2) 次々に追加される相手方の主張
Bさんからは、特別受益、寄与分、土地の減額評価、相続放棄の書面と、Aさんの取り分を減らす主張が書面のたびに追加されました。一つでも認められれば結論が大きく変わるため、各主張について認否と反論を積み重ねる必要がありました。
(3) 評価の難しい土地
Aさんが取得を希望した土地には、形状や周辺の事情から、一般の買主には売却しにくい要因がありました。この土地の価値をどう評価するかは、Aさんの最終的な取得額に直結する問題でした。
(4) 話し合いが進みにくい相手方
Bさんは支払能力がありながら低い金額での解決に固執するなど、手続の進行が滞る場面もありました。
4解決に導いた点

(1) 相手方の主張の「矛盾」と「証拠の空白」を指摘する
金銭の受領をめぐる争点では、Bさんの説明には互いに両立しない部分があり、また、主張どおりであれば残っているはずの記録も見当たりませんでした。当方はこれらの点を具体的に指摘し、Bさんに客観的証拠の提出を繰り返し求めました。
あわせて、「仮に受け取っていたとしても、親からの生前贈与(特別受益)とは評価できない」という法的な反論を二段構えで用意しました。事実の争いの結論にかかわらず、相手方の主張の効果を抑えられる構造をつくりました。
(2) 寄与分の主張には法律上の要件で応じる
寄与分が認められるには、親の財産の維持・増加について「通常の期待を超える特別の貢献」が必要です。当方は、Bさんの負担を裏付ける客観的資料がないこと、仮に負担していたとしても、Bさんは遺産の土地を無償で使って利益を得ており、特別の寄与とはいえないことを主張しました。
(3) 税務上の評価ではなく「時価」で評価させる
Bさんは相続税申告で用いる評価方法を使って土地を低く評価していました。当方は、税務上の減額措置は遺産分割の評価基準ではないことを示し、不動産会社の査定額を基準とすべきだと主張しました。最終的に、当方の査定額を基準とした評価で手続を進めることができました。
(4) 現地調査と買主探しで土地の価値を確定させる
評価の難しい土地については、不動産会社と協力して現地の状況を調査し、売却時の負担やリスクを具体的に把握しました。そのうえで、現況のまま購入する意思のある会社を探し、買付けの意向を書面で得ました。
「机上の評価額」ではなく「実際に売れる金額」を示したことで評価をめぐる争いを収束させ、Aさんがこの土地を取得しても不利にならない根拠を確保しました。
(5) 実態に即した分割案を示し、早期判断を求める
当方は、Bさんが使用している土地はBさんが取得し、Aさんは別の土地と代償金を受け取るという、双方の生活実態に即した分割案を提示しました。Bさんに代償金の支払能力があることも示しました。
あわせて、手続の長期化は不合理であるとして、提出済みの証拠に基づく早期の判断を求めました。この結果、Bさんも当方案に近い内容での解決に応じることになりました。
5解決内容
最終的に、次の内容で調停が成立しました。
①Aさんは、希望していた土地を取得する
②Bさんは、自身が使用している土地と預貯金を取得する
③Bさんは、Aさんに代償金を一括で支払う
④当事者双方は、本件の遺産について他に債権債務がないことを確認する
Bさんの特別受益・寄与分の主張は、解決内容に実質的に反映されませんでした。
Aさんが取得した不動産と代償金の合計は、Bさんが当初示していた金額を大きく上回るものとなりました。
これにより、長年動かなかった親の遺産の問題に区切りをつけることができました。
6弁護士からのメッセージ
親と同居していたきょうだいが遺産を事実上管理・使用しているケースでは、遺産分割の話し合いが進まないまま年月が経ってしまうことが少なくありません。いざ手続を始めると、「昔お金をもらっていた」「自分は親の面倒を見てきた」「土地の価値は低い」といった主張が出され、取り分が大きく減らされそうになることもあります。
本件のように、こうした主張には次のような対応が有効です。
・相手方の主張の矛盾点や、裏付けとなる証拠の有無を一つずつ確認する
・特別受益・寄与分が法律上認められるための要件に照らして反論する
・現地調査や査定を通じて、取得する財産の実際の価値を把握する
・双方の生活実態に即した、現実的な分割案を示す
相続開始から長い期間が経っていても、遺産分割を求めることはできます。ただし、時間が経つほど資料は散逸し、事情を知る方も少なくなっていきます。「兄弟が話し合いに応じない」「相手の言い分に納得できない」「土地の評価がこれで正しいのかわからない」とお悩みの方は、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。
当事務所では、遺産分割調停・審判のほか、相続財産の調査、不動産の評価、相手方との交渉まで一貫して対応しています。初回のご相談では、現在の状況と今後の見通しを丁寧にご説明いたします。お気軽にお問い合わせください。
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※解決の内容や期間は、個別の事情により異なります。

