コラム

2026/10/08 コラム

遺産分割を先延ばしにすると、特別受益も寄与分も原則として主張できなくなります

遺産分割の期限を表す砂時計とカレンダー、話し合う家族のイラスト
令和5年施行の「遺産分割の10年ルール」と、令和10年3月31日という区切り

「遺産分割はいつでもできる」と聞いたことのある方は少なくないと思います。実際、遺産を分ける手続そのものを求める権利に時効はありません。しかし、令和5年4月1日から、遺産分割の「中身」については重要な期限が設けられました。相続開始から10年が経過すると、特別受益や寄与分を主張できなくなるという民法904条の3のルール、いわゆる「遺産分割の10年ルール」です。

この制度は、施行前に開始していた古い相続にも適用されます。長年放置されてきた相続ほど、影響が大きい制度だといえます。本コラムでは、制度の内容と、実務で見落とされやすい点を整理します。

1特別受益と寄与分は、相続分を「調整する」仕組みです

法定相続分は、配偶者がおらず子が2人なら2分の1ずつというように法律で決まっています。しかしこの割合をそのまま当てはめると不公平になる場面があります。そこで用意されているのが次の2つの制度です。

  • 特別受益(民法903条)……相続人の一部が、生前に住宅資金や事業資金などの贈与を受けていた場合に、その分を遺産に持ち戻して計算し直す仕組み。
  • 寄与分(民法904条の2)……相続人の一人が、被相続人の療養看護や家業への従事などによって財産の維持・増加に特別の貢献をした場合に、その分を上乗せする仕組み。

これらを反映して算出した取り分を「具体的相続分」といいます。遺産分割の実務では、この具体的相続分をめぐる主張が争点の中心になることが多くあります。

2主張できるかどうかで、金額はどれだけ変わるのか

簡単な例で確認します。

設例

父が亡くなり、相続人は長男と二男の2人。遺産は預貯金3,000万円。長男は生前、住宅購入資金として1,000万円の贈与を受けていた。

特別受益を主張できる場合は、3,000万円に1,000万円を持ち戻した4,000万円を基準に計算します。各自の取り分は2,000万円ですが、長男はすでに1,000万円を受け取っているため、遺産からの取得は1,000万円。二男は2,000万円を取得します。

これに対し、特別受益を主張できない場合は、法定相続分どおり1,500万円ずつです。二男にとっては500万円の差になります。寄与分も同じ構造で、特別受益がないと仮定すると、二男の介護が500万円と評価されれば取得は1,750万円ですが、主張できなければやはり1,500万円です。介護の負担を金銭で反映してもらう機会そのものが失われます。

二男が遺産から取得する額(設例)
特別受益を主張できる場合
2,000万円
主張できない場合(法定相続分)
1,500万円
差額
500万円

3遺産分割の10年ルール(民法904条の3)が定めていること

民法904条の3は、「前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない」と定め、ただし書で例外を設けています(4・6で後述)。ここでいう前三条とは、特別受益(903条)、その価額の算定(904条)、寄与分(904条の2)です。

つまり10年経過後は、原則として法定相続分(遺言による指定があればその指定相続分)だけで分けることになります。生前贈与があっても考慮されず、介護の苦労も評価されません。

注意していただきたいのは起算点です。10年は「被相続人が亡くなった日」の翌日から数え、10年目の命日が期限の目安となります。生前贈与の存在を知った日ではありません。他の相続人が贈与を隠していた、疎遠で連絡が取れなかったという事情があっても、期間の進行は止まらないのが原則です。

ポイント

遺産分割の10年の期限は「亡くなった日」を基準に数えます(翌日から起算し、10年目の命日が目安)。生前贈与を知った日ではありません。

4期間を止められるのは「家庭裁判所への申立て」だけです

10年が経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割を請求していれば、特別受益・寄与分の主張は失われません。逆にいえば、それ以外の行動では期間の進行を止められません。

ご相談の場面でよくうかがう、次のような対応はいずれも該当しません。

  • 相続人同士で話し合いを続けている(協議中である)。
  • 弁護士名で内容証明郵便を送り、協議を申し入れた。
  • 遺留分侵害額請求の意思表示をした(別の制度です)。

条文が求めているのは、家庭裁判所に対する遺産分割の調停または審判の申立てです。当事者間の交渉をいくら重ねても、それだけでは10年の経過を止めることはできません。話し合いが長引いている事案ほど、期限に注意が必要です。

ポイント

遺産分割の10年の進行を止められるのは、家庭裁判所への遺産分割調停・審判の申立てだけです。

5例外はありますが、あてにできるものではありません

条文には例外が置かれていますが、範囲は限定的です。10年の期間の満了前6か月以内に遺産分割を請求できないやむを得ない事由があった相続人は、その事由が消滅した時から6か月以内に申し立てれば主張が認められます。想定されているのは、被相続人の死亡を知り得なかった場合、判断能力を欠く相続人に後見人が選任されていない場合、遺産分割を禁止する合意や審判がある場合など、客観的に請求が困難な場面に限られ、病気療養中や多忙といった個人的な事情では足りないとされています。

もう一つ、相続人全員が具体的相続分による分割に合意するのであれば、10年経過後でもその内容で分割することは可能です。ただし、有効とされるのは10年経過後にした合意であり、10年経過前に「後で具体的相続分で分けよう」と合意しておいても効力は認められないとされています。また、これは全員の合意が前提です。1人でも「法定相続分でよい」と言えばその主張が通ります。10年経過後は、生前贈与を受けた側、あるいは何の貢献もしていない側が有利な立場に立つ、と理解しておくべきでしょう。

6過去の相続にも適用されます――令和10年3月31日という区切り

この制度は令和5年4月1日の施行ですが、施行前に開始していた相続にも適用されます。ただし急に権利を失うことがないよう、経過措置が設けられており、「相続開始の時から10年を経過する時」と「施行の時から5年を経過する時」のいずれか遅い時までに家庭裁判所へ請求すればよいこととされています。

整理すると次のとおりです。

  • 令和10年(2028年)3月31日までに家庭裁判所へ申し立てれば、具体的相続分による分割の可能性が残ります。
  • これを過ぎると、相続開始から10年が令和10年3月31日までに満了する事案(概ね平成30年3月31日以前に開始した相続)では、特別受益・寄与分を一切主張できなくなります。それ以降に開始した相続では、それぞれの10年目の命日が期限となります。

何十年も未分割のまま放置されてきた土地、名義が祖父母のままになっている実家、相続人が二次相続・三次相続で十数名に膨らんでいる事案は、まさにこの対象です。期限は令和10年3月31日です。

遺産分割の10年ルールで特別受益・寄与分を主張できる期限の目安を示した図

7もう一つの影響――手続の場が変わることがあります

10年の経過には、金額以外の影響もあります。遺産である不動産に、相続人以外の第三者との共有持分が混在している場合、本来は家庭裁判所の遺産分割で処理すべきものとされています(民法258条の2第1項)。しかし相続開始から10年を経過すると、相続財産に属する共有持分についても、地方裁判所等の共有物分割訴訟で一括して分割することができるようになります(民法258条の2第2項)。なお、この規定には経過措置による猶予がないため、令和5年4月1日の時点で既に相続開始から10年を経過していた相続では、同日から既にこの方法による分割があり得ます。また、遺産共有持分を持つ相続人自身がこの訴訟を起こすこともできます。

家庭裁判所に遺産分割が請求されている場合には、相続人が裁判所から通知を受けた日から2か月以内に異議を申し出ることで、遺産分割での処理を求めることができますが、遺産分割の請求がされていなければ異議は出せません。遺産分割の請求をしないまま10年を経過すると、家庭裁判所での話し合いではなく、他の共有者が起こした訴訟の場に引き込まれる可能性が出てきます。手続の主導権という面でも、10年の経過は軽視できません。

8いま確認していただきたい3点

  • 相続開始日はいつか。10年まで、あと何年残っているか。
  • 生前贈与、介護、家業への従事など、主張したい事情があるか。
  • 協議が長期化している場合、家庭裁判所への申立てを検討すべき時期に来ていないか。

特に注意が必要なのは、協議が平行線のまま数年が経過している事案、相続人の一部と連絡が取れない事案、相続人の中に判断能力の低下した方がいる事案です。これらは手続に時間がかかりやすく、気づいたときには残り期間がわずかということが起こり得ます。判断能力を欠く相続人に後見人がいない場合には、成年後見の申立てもあわせて検討が必要です。

おわりに

相続の手続は、感情の整理がつかないまま先送りされがちです。しかし令和3年の民法改正により、先送りには具体的な不利益が伴うことになりました。言い分のある方にとっては、時間の経過そのものが不利に働きます。なお、話し合いを続けつつ、期限を確保するために先に申立てを行うという進め方もあり得ます。

相続開始から年数が経っている、あるいは協議が長引いているという方は、期限との関係を一度ご確認ください。当事務所では、相続開始日と残存期間の確認から、申立ての要否の判断まで対応しております。お早めにご相談ください。

相続開始日と残りの期間の確認から、申立ての要否の判断までご相談ください。

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参考リンク(公的機関・一次情報)

法務省
不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~ ↗
相続登記・遺産分割の手続や、令和3年改正のパンフレットがまとまった法務省のページです。
法務省(PDF)
遺産分割に関する民法改正の概要 ↗
相続開始から10年を経過した遺産分割のルールと経過措置を解説した法務省の資料です。
裁判所
遺産分割調停 ↗
家庭裁判所への遺産分割調停の申立先・費用・必要書類の案内です。
e-Gov法令検索
民法 ↗
第903条・第904条の2・第904条の3・第258条の2の条文を確認できます。

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